AI・業務改善
営業でのAI活用|任せる業務と人が判断する業務
提案書の下書きは、すぐに出てきた。けれど、内容を確認しようとすると、約束していない納期や、根拠の分からない数字が混ざっている。直しているうちに、自分で書くのと変わらない時間が過ぎる。
こうした手戻りを減らすには、「この仕事をAIに任せるか」だけでなく、仕事を工程に分け、入力する情報と人が確認する箇所を先に決めることが役立ちます。担当を分ける単位は、職種よりも具体的な作業です。
01一つの仕事にも、性質の違う作業がある
提案書を作る仕事には、情報を集める、相手の課題を整理する、構成を考える、文章にする、数値を確かめる、約束する内容を決める、といった作業が含まれます。この全部を一度に渡すと、どこで誤りが入ったかを見つけにくくなります。
まずは、やり直しやすく、結果の良し悪しを判断できる作業から切り出してみます。自分が確認できる資料の要約や、確定した条件を使う文章の下書きなら、確認対象を絞れます。
逆に、判断の根拠を自分でも確認できない作業は、出力が自然でも評価しにくいままです。その場合はAIへの委任範囲を狭めるか、確認できる担当者を先に決めます。
02営業の仕事を分けると、任せ方が見えてくる
次の表は、本記事が提案する初期の役割分担です。製品の性能を保証するものではなく、利用環境や社内ルールに合わせて調整します。
| 作業 | AIに依頼する範囲の例 | 人が確認すること |
|---|---|---|
| 企業調査 | 公開資料から情報を整理する | 企業の同一性、出典、情報の日付 |
| 商談準備 | 確認する質問の候補を出す | 相手の状況に合うか、決めつけがないか |
| 提案書 | 確定情報を基に構成と下書きを作る | 提供範囲、数字、費用、納期 |
| 商談メモ | 入力を認めた記録から論点を整理する | 発言者、合意事項、未確定事項 |
| メール | 伝える事実を基に文面を整える | 宛先、約束、添付、送信可否 |
「メールを作成する」と「メールを送信する」は別の行動です。最初は下書きまでにとどめ、相手に届く操作は人が確認する設計にすると、修正の機会を確保できます。
図で整理する
03入力と出力の境界を、短いルールにする
「気をつけて使う」だけでは、人によって判断が変わります。使ってよい情報、してよい作業、出力の確認者を一枚にまとめます。
- 入力:公開情報、社内で利用を認めた資料など、どこまで扱えるか。
- 作業:要約、分類、下書きなど、依頼してよい範囲。
- 確認:重要な数字、固有名詞、顧客への約束を誰が見るか。
- 外部への操作:送信、公開、登録などを実行する前の確認方法。
利用サービスによって、入力データの保存や利用の条件は異なります。契約・設定・社内ルールを確認し、確認できていない機密情報は入力しない運用から始めます。
IPA掲載・中核人材育成プログラム7期生成果物「テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン」(2024年7月)の第4章も、入力情報の制限と生成物の正確性の確認を扱っています。本記事では、その基本的な注意点を踏まえ、作業ごとの役割分担を提案しています。特定サービスの現在の機能や契約条件は、各提供元の資料で確認してください。
04下書きを頼むときは、書いてよいことを渡す
自由度の高い依頼ほど、確認する範囲も広がります。たとえばメール作成では、文体の指定だけでなく、確定している事実と、まだ書かないことを渡します。
以下の確定情報だけを使い、商談後のお礼メールの下書きを作ってください。 確定情報: ・本日の商談へのお礼 ・次回は、先方が共有可能な業務フローを基に確認する ・こちらから資料の候補を提示する まだ決まっていないこと: ・次回の日程 ・費用、納期、導入効果 未確定の事項を補わないでください。 本文の後に、送信前に担当者が確認する項目を別に示してください。 送信操作は行わず、下書きのみ作ってください。
この指示文も確認を不要にするものではありません。意図しない約束や、実際の商談と異なる表現がないかを担当者が見ます。必要な情報が足りなければ、文章を完成させる前に確認します。
05比較するのは、生成時間ではなく仕事が終わるまでの時間
効果を確認するときは、同程度の作業で、AIを使わない場合と使う場合を比べます。情報をそろえる時間、指示する時間、内容確認、修正、最終の整形まで含めて記録します。
| 記録するもの | 見たいこと |
|---|---|
| 作業の種類と条件 | 比較する仕事の難しさが近いか |
| 準備・生成・確認・修正の時間 | どの工程が短くなり、どこへ負担が移ったか |
| 重要な誤りと手戻り | 短くなっても品質が落ちていないか |
| 再利用できた指示や書式 | 次回も同じ進め方が使えるか |
一回うまくいっただけで、すべての業務に広げる必要はありません。異なる資料や案件でも繰り返し試し、どの条件なら使えるかを見ます。確認に時間がかかりすぎる場合は、出力を短くする、資料を絞る、判断が必要な箇所を別にする、といった見直しができます。
06任せる範囲は、確認できる範囲から広げる
作業を試したら、成功した指示文だけでなく、うまくいかなかった条件も残します。「数字のある表は原本確認が必要」「複数人の会話では合意の有無を確認する」など、次の担当者が迷わない形にしておきます。
確認者が決まっていない、出力の誤りを見分けられない、外部への操作を取り消しにくい。そのような工程は、いったん人の判断を残しておく場所です。道具の性能が上がっても、自社で何を任せられるかは、仕事の条件から決めます。
明日使うなら、一つの仕事を五つ程度の工程に分け、まず一工程だけ試してみてください。「AIを使ったか」よりも、「確認を含めて、仕事がどう変わったか」が分かる始め方になります。
参考資料
参照確認日:2026年10月24日。